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  • 2008.11.03 Monday
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茶色の朝

大人向けの絵本です。

巻末にメッセージがついていますが、それを読むと、私達日本人にとってはどうということのない色の「茶色」が、フランスの読者にとって、ナチスを連想させるものだということがわかります。(初期に茶色のシャツを制服としていたため、「茶シャツ隊」はナチスの別名でした)
そういったことから、今日では、「茶色」は、ナチズム、ファシズム、全体主義などと親和性を持つ「極右」の人々を連想させる色になっているというのだそうです。

では、この「茶色」を使った「茶色の朝」は、どのような本なのでしょうか。

物語は、陽の光がふりそそぐビストロで「俺」と「シャルリー」が過ごしているところから始まります。
二人は、「時の流れに身をゆだねておけばよい、心地よいひととき」を互いに共有しています。

二人のペットは、「茶色以外のペットは始末する」という法律によって、自分の猫と犬を始末しなければならなかったのです。
その法律は、「茶色がもっとも都市生活に適していて、子どもを産みすぎず、えさもはるかに少なくてすむ」という結果が出た餞別テストを根拠として、制定されました。
二人は、何か「妙な感じ」を持ちはしますが、結局、自分を無理に納得させ、法律に従います。

しばらくして、その法律を批判していた新聞が廃刊になり、その系列出版社の書籍が、廃刊・起訴・図書館からの強制撤去をされます。

「俺」は、腰を抜かし、「茶色新聞」しか読めないことにうっとうしさを感じつつも、まわりの人々が今までどおりの生活を続けていくのを見て、
「きっと心配性の俺がばかなんだ」
と、思うのです。

そのうちに茶色に染まることに違和感を感じなくなっていく俺たち。

茶色の犬と茶色の猫を飼いはじめ、快適な生活と感じる俺たち。

「街の流れに逆らわないでいさえすれば、安心が得られて、面倒にまきこまれることもなく、生活も簡単になるかのようだった。」
と、考え、
「茶色に守られた安心、それも悪くない。」
とも、考えていきます。

ところが、ある日、シャルリーが「かつて黒の犬を飼っていた」という理由で、自警団に逮捕されます。「国家反逆罪」だと。

「これは、明らかにやりすぎだ。」
と、考える俺。

「抵抗すべきだったんだ。
 でも、どうやって?
 政府の動きはすばやかったし、
 俺には仕事があるし、
 毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い。
 他の人たちだって、
 ごたごたはごめんだから、
 おとなしくしているんじゃないか?」
と、ひと晩じゅう眠れずに自問する俺。

そして、「俺」の家のドアが強くたたかれ、「いま行くから」と、たぶん自分を捕まえに来た(俺は昔、白と黒のぶちの犬を飼っていました)自警団に声をかけるところで物語は終わります。

著者のフランク・パヴロフは、フランス国内で勢力を伸ばした極右政党・国民戦線が、統一選挙で躍進、これと協力関係をとり結ぼうとした保守派の動きに抗議するために本書を出版したそうです。

「私たちのだれもがもっている怠慢、臆病、自己保身、他者への無関心といった日常的な態度の積み重ねが、ファシズムや全体主義を成立させる重要な要因であることを、じつにみごとに描き出してくれています。」と、東京大学大学院教授の高橋哲哉氏は、本書の「メッセージ」のなかで述べています。

今、私たちのまわりでは「法律で決まったのだから仕方がない」ということばが聞かれることがあります。私も、今さらさわいだって孤立するだけだと、あえて物を言わなくなっている自分に気づくことがあります。
でも、それで、いいのかな……。

今日、りでおさんの「策士の作戦」へ行き、トップページにのせられた【勇気】という詩を読んで、心が動きました。

松谷みよ子は、「屋根裏部屋の秘密」を書いたときに、右翼から命をねらわれることまで覚悟して、ある一文を入れたそうです。

私には、そんな強さはないけれど、でも、このブログで、この本を紹介することならできそうな気がして、今書いています。

茶色の朝
フランク パヴロフ/物語 ヴィンセント ギャロ/絵 藤本一勇/訳
出版社名 大月書店
出版年月 2003年12月
ISBNコード 978-4-272-60047-2
(4-272-60047-8)
税込価格 1,050円
頁数・縦サイズ 47P 20cm

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死都日本

「死都」なんて、なんだかおどろおどろしい題名ですが、中身はそんな変な内容の本ではありません。きわめて真面目な内容を真面目に書いている本です。
新聞でちらっと名前が出ていたのを見て読んでみましたが、かなり有名な本だったんですね。恥ずかしながら今まで知りませんでしたが。

こんなにおもしろい本を読んだのは久しぶり。
図書館から借りた520ページを2回読み返してしまいました。
1回目は火山内部での描写や、地図関係は流しながら一気に読み、2回目は、日本地図を持ってきて地名を確認し、おまけに滅多にないぐらい科学的な知識を思い出しながらじっくりと……。

破局的噴火がもし南九州で起こったら……という設定で、そのとき、九州に、日本に(世界にも)何が起こるかということが、現実にあったらこうなるのかと思わせる迫真の描写で書かれています。

火砕流、火砕サージ、ラハール(土石流)……。
真にせまる描写で、鹿児島を襲った火砕流の部分では息を飲みました。

それらの(多分)正確な描写にくわえ、おもしろかったのは、日本神話や、西欧の神話、聖書の中に噴火の様子が書かれているという主人公の(おそらくは作者の)説です。

イザナギとイザナミの伝承は、高千穂の峰のそばに住む部族とその側の火山のことだとか、天の岩戸伝説は日食ではなく噴火による寒冷化だったとか、ヨハネの黙示録の大バビロンが滅びたのは噴火によるものだとか……。古事記の「狭蝿(さばえ)」や「常夜ゆきき」(とこやみゆきき)の話なども……。
火山のこれこれの現象がこれこれの神話や伝説を産んだということが魅力的に語られていて、これが、素人の私には説得力のある説に思えてわくわくしてしまいました。

この本では破局的噴火によって、都城市や鹿児島市、そのほか、南九州の多くの都市が、文字通り死の都市になってしまいます。
でも、この規模の噴火は、日本だけを考えても、実際に1万年に1回程度おこっていたということなのだそうです。
有史以来、これほどすさまじい噴火は起こっていませんが、あの広大な鹿児島のシラス台地などは、姶良カルデラ(桜島北側の錦江湾全体)の噴火によって作られたということを考えると、噴火というものは恐ろしいものだと思われてなりません。

そういえば、ネアンデルタール人で島のくらしに適応してくらしていた1派が近くの島の噴火で絶滅したという話も聞いたことがありましたっけ。

ちなみに、約4万年前の破局的な噴火で支笏火砕流が噴出し、 現在の支笏カルデラが形成されたという話を聞いたことがあります。このときの火砕流は札幌市の付近まで来たということで、つい、もしそんな火砕流が起こったら、どこへ逃げようかと考えてしまいました。
死都日本
石黒耀/著
出版社名 講談社
出版年月 2002年9月
ISBNコード 978-4-06-211366-3
(4-06-211366-X)
税込価格 2,415円
頁数・縦サイズ 520P 20cm


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くっくです。この名前、鳥ということでつけたほかはなんの意味もありませんが、気にいってます。カウンターの数字は「スランになりたいな」からのものです。数字が消えてしまうのはちょっと悲しかったので……。「スランの本棚」のカウンターはこれから7700をひいたものです(^^ゞ

キアです。ヴォクトの「スラン」に出てくるなかなか重要な登場人物キア・グレイの名前から拝借しました。ペットの名前に使われたと知ったら怒られそうです。
スランについて
ブログ「スランの本棚」のスランはヴォクトの古典的名作SF「スラン」からとりました。 スランというのは、新人類で、人の心を読むことができたり、知覚力や知力が現(?)人類よりはるかにうわまわっています。迫害され、表舞台からは姿をけしています。主人公のジョン・トマス・クロスはまだ9歳のスランの少年。人類や無触毛スラン(スランには触毛があるんです)に対して憎悪を持ちながらも、成長し能力が成熟していくなかで共存の道を模索していきます。 ね、なかなかいい感じでしょう。 前の「スランになりたいな」を始めるときに、たまたま「スラン」を読み返していたため勢いでつけました。勢いでつけたわりには気にいっています。 でも、この「スラン」絶版になっています。さびしいなあ。 ちなみに、昔アニメにもなった竹宮恵子の「地球へ」の主人公、ジョミーは、この「スラン」の主人公ジョン・トマス・クロス にちなんでいるそうです
                
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