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  • 2008.11.03 Monday
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彼の手は語りつぐ

前の記事でいろいろ書きましたが、気をとりなおして「彼の手は語りつぐ」を。
「本・物・嗜・好」のbincaさんのところで紹介されていた本です。
どうしても読みたくてすぐ買ったのですが、なかなかすぐにはブログに書けませんでした。

作者は「ありがとう、フォルカーせんせい」(このブログの記事はこちら)のパトリシア・ポラッコ。彼女の絵本は家に伝わってきたことや自分が経験したことをもとにしているのですが、事実の重みが伝わってきていつも心を動かされます。

この「彼の手は語りつぐ」も、ポラッコさんの家で5代にわたって語りつがれてきた物語です。話の舞台は南北戦争(1861年-1865年)の終わりごろなので、およそ140年間伝えられてきた話ということになります。

覚悟を持って戦争に出かける黒人の少年と、にこにこして(そう見えます)出かける白人の少年。
黒人の少年はピンクス・エイリー(ピンク)、白人の少年はシェルダン・カーティス(セイ)。

戦場でけがをし、部隊におきざりにされたシェルダンを助けたのは、やはり自分の部隊(黒人部隊)とはぐれたピンクスでした。

2人は南部のピンクスのお母さんの家へたどりつきます。

ピンクスは、奴隷の身であったのにもかかわらず文字を読み書きすることができ、この戦争を自分たちの戦争だと理解し、シェルダンのけがが治ったらもう一度戦場にもどらなければと決意しています。

   「奴隷に生まれるってことは、苦しみがどっさりってことなんだ。
    でも、エイリーのだんなに読み書きを教わってから、
    おれはわかったんだ。
    たとえ奴隷でも、自分のほんとうの主人は、
    自分以外にはいないってことを」

反対に、シェルダンは、気が弱く、幼さすら感じます。ただ一つの誇りは、自分の手でエイブラハム・リンカーンと握手をしたということ。
ピンクスもピンクスのお母さん(モー・モー・ベイ)も、そんなシェルダンをあたたかく包んでくれます。

シェルダンとピンクス、モー・モー・ベイの間の会話で話は進んでいくのですが、戦場にもどることになり泣くシェルダンとモー・モー・ベイのやりとりは、とりわけ、素朴な愛とはこういうものだと強く感じさせてくれます。

  「ぼくは、ピンクスみたいに勇敢じゃないんだ。ぼくはこしぬけだよ」
  「なあぼうや。勇敢だってことは、
   こわさを感じないっていう意味じゃないんだよ、
   わかるかい?」
  (中略)
  「さあ、ぼうや、だきしめてあげよう。
   ぼうやはいつかきっと、おじいさんになるよ。(略)」

でも、2人が戦場にもどろうとした朝、モー・モー・ベイは南軍の兵士に射殺されます。
そして、その後、戦場にもどる途中で2人も南軍の兵士にとらえられるのです。

別々に引き裂かれそうになったとき、

   ピンクは、ぼくに手をのばしていった。
  「おれの手を握ってくれ。
   リンカーンさんと握手したその手で、セイ、もう一度だけ」

引き離されるまで握り合った手。

そして、ピンクスは死に、シェルダンは生き残ります。ピンクスが収容所に到着した数時間後に殺されたということは、黒人だったからということでしょう。

ピンクス・エイリーには、彼を語りついでくれる子供はいません。でも、シェルダンは、娘に、娘はその娘にと、この話を語りついできました。
そうして、パトリシア・ポラッコがこの本を書きました。ピンクス・エイリーを記憶にとどめるために。

子供や孫の写真の絵とともに、作者からのメッセージが書かれた最後のページを読むといつも涙がこみあげてきます。

この話を読むと、戦争でだれひとり語るものがいなくなってしまった大勢の人たちのことを考えてしまいます。
私たちにも語っていかなければならない多くのことがあると感じます。

表紙の絵は、2人がにぎりあった手。
なんだか違和感があって、よく見たら、2人以外の手がシェルダンの手をつかんでいるのです。絵本のなかにもその場面はかかれていて、それを見ると、その手は2人を引き離そうとしている人間の手であることがわかります。
思いを伝えようとしている手と、それを引き離そうとする手。
この絵を表紙にした人の思いが感じられるのは、深読みかな……。

是非、子どもたちに読みたいと思っていましたが、背景の難しさなどから小学生には無理かと考えていました。
ところが、光村の6年生の国語の教科書で紹介されていたことを娘が教えてくれました。
ちよっとびっくりしました(^^ゞ

ちなみに、原題は、
Pink and Say
(訳者がつけた題名がすてきです。最近映画などで原題をそのままにつける場合が多いですが、こういった例を見ると、やっぱり、美しい日本語の題名をつけてほしいものです)

彼の手は語りつぐ
パトリシア・ポラッコ/文と絵 千葉茂樹/訳
出版社名 あすなろ書房
出版年月 2001年5月
ISBNコード 978-4-7515-1984-4
(4-7515-1984-0)
税込価格 1,680円
頁数・縦サイズ 47P 29cm


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  • 2008.11.03 Monday
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コメント
”愛””悲惨”が伝わりますね。。
戦場にわが子を送り出す母親の気持ちはいかばかりでしょう。
あらためて戦争は繰り返してはいけないことだと思いました。
失うものが大き過ぎ、得るものは何もないのに・・
  • magu7
  • 2007/05/03 3:55 PM
とても涙無しでは読めませんでした。
今日は憲法記念日なのに、民放はせいぜいニュース番組の中の特集ぐらいです。
今語らずして何時語るのでしょう。
実際の戦場がどの程度かもう誰も語れなくなります。その前にそれを聞き取り書き留めておかなくてはいけない私らの責任は重いです。

私はあまりにも苦しくなり、戦争モノを見ること・読むことができなくなりました。あなたの記事を読むのが精一杯でした。本のご紹介ありがとう。ここにお出でになる方がこの記事を読んできっと何かを感じていただけるように祈ります。
ご無沙汰しちゃいました〜!!
と思いきや、おぉぉぉ!
”彼の手は…”じゃないですか!
この本はほんとに深く考えさせられる本でした。
戦争について語られるストーリーは実話が多いこともあってより魂を揺さぶられますね。
永遠の名著です(^^)
  • binca
  • 2007/07/03 10:02 PM
こんばんはー
リンクさせていただきました^^
もしよろしかったら相互リンクお願いします

http://tabi-009.seesaa.net/
旅行へいこう
  • 2007/07/07 5:00 AM
magu7さん ありがとうございます
戦争で失われた(今も失われつつある)あまりにも多くのことに思いをいたすと、苦しい気持ちになりますね。

りでおさん ありがとうございます
戦争のことを書いたものを子どもたちに読むと私もいつも泣いてしまいます。それでも私たちが読むことによって種をまくことができたらと考えたりもします。無力な自分が悲しくもなったりしますが。


bincaさん ありがとうございます
私も思いっきりご無沙汰してしまっちゃいました。この本を教えていただいて本当によかったです。おっしゃるとおり、永遠の名著、心に残る1冊ですよね。


  • ぱいぽ
  • 2008/01/14 12:39 PM
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キアです。ヴォクトの「スラン」に出てくるなかなか重要な登場人物キア・グレイの名前から拝借しました。ペットの名前に使われたと知ったら怒られそうです。
スランについて
ブログ「スランの本棚」のスランはヴォクトの古典的名作SF「スラン」からとりました。 スランというのは、新人類で、人の心を読むことができたり、知覚力や知力が現(?)人類よりはるかにうわまわっています。迫害され、表舞台からは姿をけしています。主人公のジョン・トマス・クロスはまだ9歳のスランの少年。人類や無触毛スラン(スランには触毛があるんです)に対して憎悪を持ちながらも、成長し能力が成熟していくなかで共存の道を模索していきます。 ね、なかなかいい感じでしょう。 前の「スランになりたいな」を始めるときに、たまたま「スラン」を読み返していたため勢いでつけました。勢いでつけたわりには気にいっています。 でも、この「スラン」絶版になっています。さびしいなあ。 ちなみに、昔アニメにもなった竹宮恵子の「地球へ」の主人公、ジョミーは、この「スラン」の主人公ジョン・トマス・クロス にちなんでいるそうです
                
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